Works
兎夢
「兎夢」と書かれた暖簾をくぐると、「月と兎」が出迎えてくれる。玄関に入って「こんにちは」や「こんばんは」と声を上げなければ主人に伝わらない。これは一般の住宅と同じで、家人が「どうぞ」と言って初めて上がることができる。 客室は2室あり、いずれも天井高が1.95mと低いため、6畳間(客室2)は足を下ろせる座卓を設置し、広間(客室1)も足を下ろせるカウンター席としている。どちらも低い目線で中庭を眺めることができ、落ち着く高さになっている。 カウンターの正面と中庭の間にある廊下は、給仕やトイレに行く動線となっているが、これを舞台としてとらえ、店の人や客が俳優となる遊び心を演出している。この舞台では、舞笛や太鼓の演じ物を行うことも一興であろう。また、2階で時折開かれる茶会も、遊びの一つとして楽しむことができる。 この建物を住宅として住みこなすこと自体も、遊びと捉えることができる。そのほか、2階に床の間付きのトイレが設置されたり、逆に頭がぶつかるような不便な部分があったりするが、これが町家の改装の面白さでもある。 このように、建物の性格や構造を活かしつつ、少しの遊び心を加えることで、本来この茶屋が持っていた生気を取り戻せたのではないかと考える。しかし、忘れてはならないのは、何よりもオーナーの熱意と粋な遊び心がなければ、この改装は成し得なかったということである。それは、人の思いが建築や街並みをつくり育てていくことを、改めて感じさせてくれた。
石川県金沢市
構造 : 木造(改修)
規模 : 地上2階建て
延床面積 : 326.27㎡
用途 : 店舗併用住宅
構造 : 木造(改修)
規模 : 地上2階建て
延床面積 : 326.27㎡
用途 : 店舗併用住宅