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あやとりはし

あやとりはし

「楽しく渡る」が「あやとりはし」の最初からのテーマであった。この橋は山中温泉の外縁を流れる鶴仙渓に架かる歩行者専用橋であり、山中町が事業として進めた「勅使河原宏、鶴仙渓を活ける」という景観整備プロジェクトの第一歩となったものである。「活ける」とは、草月流家元でもある勅使河原氏が渓谷という自然環境を舞台に、散策道を中心とした築庭を行うプロジェクトを指している。

橋のデザインは、橋が架かる距離70m2点間に6mの高低差があることや、川面から22mの高さを歩行することから、直線の橋では恐怖心を抱かせるだろうと考え、S字状に曲がりながらレベル差を解消する形状が採用された。S字状の形状は、渓谷の流水、さまざまな樹木、山の斜面、空などが刻々と変化する様子を楽しむ仕掛けにもなっている。また、渓谷内に橋脚を設けたくなかったこと、最小限の構造体で納めたかったことから、1スパンの3弦トラス内に歩廊を設ける形状とした。

実は当初案では3弦トラスではなく、正四面体を連結して構成するスパイラル状の構造であった。この案では正四面体の1辺を短くして形を崩すことで、スパイラルがS字状になる設計が考えられていた。構造解析は渡辺邦夫氏(S.D.G.)が担当したが、施工業者から「S字状の構造さえ世界に類例がないのに、スパイラル状は自信がない」という理由で断念せざるを得なかった。

橋梁の構造に関しては、建築センターのような審査機構が存在しないため、実現可能かどうかは施工業者が請け負うか否かにかかっているという現実を、今回初めて知ることとなった。

それでも、今回は勅使河原氏のような異分野の空間芸術家との協働による挑戦であり、さらに橋梁という異なる分野で「渡ってみたくなる」「ドラマのある」空間を追求した時間は、とても有意義であった。こうした分野を越えた交流は、日本の環境をより自由で創造的に形成する上で、重要な手法となると感じられる。

この橋の完成によって、対岸を散策する浴客が増えた。しかし皮肉なことに、対岸からはこれまであまり意識されてこなかった旅館群の汚れた裏側が目立つようになり、その自浄行動がない限り「鶴仙渓を活ける」プロジェクトの進展は難しくなった。「あやとりはし」は、町と旅館に対してそうした問題提起も行う存在となったのである。

石川県加賀市
構造 : S字曲線3弦トラス橋
主構長 : 83,577㎜
支間長 : 66,861㎜
歩廊長 : 94,709㎜
歩廊幅員 : 1,500㎜
歩廊高低差 : 5,000㎜
あやとりはし
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